2014年12月13日土曜日

資料を起点にした待ち合わせにおけるUXデザイン

本日12月13日は角田が担当致します。

本投稿では個人的に「どうすれば素晴らしい待ち合わせができるか」普段、考えていることについて書きたいと思います。


要点:「体験価値」を構築するという視座を持ち、相手が自分と落ち合うまでにするであろう体験の、予習可能な資料を作成することで、資料内容と当日の実体験を一致させて、円滑にナビゲートすることができる。そして、その一致の連続はちょっと素敵なUXとして成立する(かもしれない)


待ち合わせにおけるUXデザインの対象は
「待ち合わせの設定から合うまで」のスムーズな体験

まず始めに、待ち合わせにおけるUXデザインとして取り扱う範囲を定義したいと思います。そもそも、待ち合わせのゴールとは、何か特別な気持ちや感情を喚起させようとするものではなく、単純に、相手が迷う事なくこちら側と落ち合えることであるはずです。したがって、ここでは「どのようにすれば最初のコンタクトから、当日落ち合うまでの間の体験をスムーズに行えるか」を待ち合わせにおけるUXデザインの対象として考えていきます。


シーンによってはGPS機能だけでは不十分。
「体験価値」を構築するという視点で資料を作成し、出力も視野に入れる

普段私たちは、どのように友人や仕事相手と待ち合わせをしているでしょうか。カジュアルな間柄であれば、住所を指定してGPSナビで来てもらったり、口頭で場所を伝えるだけということもあります。そういった方法は手軽で早く、ちょっとした待ち合わせには適切です。しかし、相手と初めてお会いする事の多いビジネスシーンや、フォーマルな状況において、地図上にタギングされる位置情報等だけでは不十分であることがあります。また、相手のリテラシーや使用デバイスもまちまちで、そもそもGPSが使えるかどうかもわかりません。そこで、有効なのが「体験価値を構築するという視座を持った、当日の予習可能な資料」です。つまり、待ち合わせに必要な要素を洗い出し、単に分かりやすいだけではなく、当日相手が経験するであろうことも予測しつつ資料に埋め込むことで、相手に資料と自らの行動の一致を楽しんでもらおうというものです。そして、この視点を取り入れた上で、出力、FAX、添付など、あらゆる形式に対応したJPEG形式、またはクリッカブルなpdf形式で制作することが、リテラシーを問わず使用できる有効な資料となります。


当日の予習可能な資料の内容は記憶情報と体験情報の組みあわせ。
それぞれ適切な表現を採用する

では、資料にはどのような情報が必要でしょうか。私が考えるに、当日の予習可能な資料は2つの情報から成り立っていると想定されます。まず1つ目は、記憶しておかなければならない情報です。待ち合わせ日時や集合場所、当日連絡先などがこれに当てはまります。これらの情報は共通概念として正確に定義できるので、文字情報での表現が有効です。その一方で、経路などの相手が実際に体験すると考えられる、体験情報があります。こちらは画像表現がメインとなります。例えば、場所を指定する際に「出口から出て、2つ目の交差点を右折」と指示してしまうと、たまたま出口付近に交差点があると、その交差点を数に含めるか否かの判断がつかず、2つ目の交差点を定義できません。そうした曖昧さを残さないように、体験情報は基本的には画像がメインとなります。そして、それぞれの情報に適した表現を組み合わせることで、分かりやすく情報を構成することが可能となります。

以上のことを加味した上で、ここからは実例を挙げて、どのように資料を作れば良いのかを考えます。下記の資料は、私がデモ用としてTEDxTsukuba向けに作成したものです。

※この資料は、相手が必ず徒歩で来るという状況のものです。


蟻の経路探索方法を応用して
経路を構成する4つの要素を抽出する

上記資料ではまず、知識情報を1つの固まりとしてグルーピングし、その他の画面の大部分を使用して体験情報を配置しています。ここでさらに、体験情報のメインとなる経路を構成する要素について考察してみたいと思います。この要素を抽出するヒントとなるのは、行動生物学の蟻の経路探索方法です。

”数十年に渡る調査の結果、行動生物学者たちはその方法を解明し始めた。研究によれば、アリはジオセントリック(地球中心的)な技法とエゴセントリック(自己中心的)な技法を組み合わせて使っているのだ。ジオセントリック(アロセントリックまたはエキゾセントリックと称されることもある)なナビゲーションは、ランドマークや入手可能なあらゆる地図的情報のような外部環境の手がかりを頼りにする。アリは視覚的ランドマークを徹底的に利用する。事実、アリはある場所から別の場所に進むだびにスナップショットを撮り、その視覚的記憶を頼りにして帰り道をたどることが可能なのだ。

~中略~

エゴセントリックなナビゲーションは、実際に歩んだ距離と方向についての自己認識に基づくものであり、目の前の環境に左右されない。アリは自身の軌跡をたどって帰るために経路積分として知られるエゴセントリックな戦略を採用する。この戦略は、2つの特筆すべき感覚によって可能になる。第1に、アリには車の走行距離計(オドメーター)に相当する生物学的機能が備わっており、トータルでどれだけの歩数を歩んだかだけでなく、全行程の中の各区域において歩んだ地表上の距離まで知ることができる。第2に、アリは偏光で示される太陽の位置に基づいて方位を算出する、スカイライト(天窓)コンパスを持っている。アリはこれらの距離と方位についての知覚を組み合わせて、ランドマークに依存せずに来た道を戻るための本能を獲得しているのである。もちろんこれらの感覚は不完全であり、歩を進めるにつれて認識エラーが急激に増えることもある。そのエラーを訂正し最終的な経路探索の成功を導くのは、複数の戦略の高度なコンビネーションなのだ。

引用元:Peter Morville著 浅野紀予訳「アンビエント・ファインダビリティ-ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅」(p23~24)O'Reilly Japan 2006

例えば、ジオセントリックな情報は人間においても出発~到着までの視線のスクリーンショットと置き換える事が可能です。もちろん、全ての地点でのスクリーンショットを取り入れてしまう、とページ数が膨大になってしまうため、出発地点と目的地に絞るなど、バランスを考慮した省略が必要となります。その他の要素も下記にまとめます。


前述の引用では認知に焦点が絞られていますが、それに加えて、足跡も重要な情報の1つと考えられます。こちらはルートとして表現する事が可能です。このように経路を構成する要素を洗い出して、人間用に再解釈し、それらのコンビネーションで有効活用できる情報に落とし込みます。


googleストリートビューの肝は
待ち合わせ場所の分散化を可能にしていること

少し話しがそれますが、分かりやすい経路構成に多大な貢献をしているのがgoogleストリートビューです。かつて、地図上の番地程度しか目的地の情報を知り得なかった私たちが、googleストリートビューのおかげで、まだ訪れた事がない場所のジオセントリックな情報が入手できるようになりました(実際に資料の右上の出発地点~の画像はストリートビューから引用しています)。これによって、今まででは「新宿駅東口の改札前」や「ハチ公前」といったランドマークを頼りにしなければならなかった集合場所の指定が、混雑を見越して少し離れた場所を指定したりと、実質的にはgoogleストリートビューが対応している範囲であれば、どの地点でも行えるようになったのです。


あくまでもA4サイズ1ページ以内に収める

ここまで、様々な情報を挙げてきました。もちろん全ての要素を漏れなく重複なく配置することが一番ですが、いくら丁寧に情報を並べても、数ページに渡る資料となると、相手にとって煩わしいものとなってしまいます。手軽さを考え、1ページ(枚)で出力されることを想定し、普及率の高いA4プリンターで出力可能なサイズに押さえると良いと考えられます。


相手にとって待ち合わせ場所までの移動は確認作業。
体験と資料が一致していく事で気持ちのいい待ち合わせができる

このように「体験価値」を構築するという視座を持ち資料を作成することで、待ち合わせがUXデザインの対象となります。そして、ただの待ち合わせではなく、資料と実体験の一致を意識することで、ちょっと素敵な相手に沿ったスムーズな待ち合わせができるのではないでしょうか。

さて、ここまで来たら後は現地で待ち合わせるだけです。当日の服装はもちろん、資料に貼られた自分の切り抜きと同じ格好で!